2022年10月01日
利根中央病院
視能訓練士
北野明美
弱視や斜視は子供の視機能の発達が完成される前の限られた期間内でしか訓練効果が得られないため、より早い段階で発見し、訓練や治療が始めることが大切です。
早期発見と訓練・治療の開始を
利根中央病院眼科には、眼科一般検査、弱視・斜視訓練・ロービジョンケア(視覚に障害があるため生活に何らかの支障を来している人に対する補助具の選定・紹介)などを行う視能訓練士が4名在籍しています。
数年前より、近隣3市町村(沼田市・みなかみ町・昭和村)の3歳児健診に当院視能訓練士が参加しています。群馬県では、眼の位置や屈折状態を測る器械の導入もあり、今まで就学時健診まで見逃されがちだった弱視や斜視の早期発見につながっています。令和4年現在、全県下で屈折検査機器が導入されているのは、全国でも群馬県を含め3県のみとなっています。
当院では、各市町村からの紹介による3歳児検診の弱視斜視患者数が過去3年間、毎年増加してきています。
弱視
発達していない状態。眼鏡で矯正しても視力が充分にでない状態。良い視力というものは生まれながらに備え付けられたものではなく、きちんとピントの合った像が網膜に与え続けられることによって、年齢と共に発育して、良い視力が得られるようになります。従って、視力が発育している時期に網膜上にピントが合った像が結べなかった時に、視力は発達しなくなります。この状態が弱視です。
弱視の原因
- 屈折異常
- 斜視
- 角膜・水晶体の混濁
- その他、何らかの病気
弱視の治療・訓練
①原因除去:白内障やその他の疾患の治療
②屈折異常の矯正:屈折矯正後も視力が充分でない時は、調節麻痺剤点眼による詳しい検査をします。
小児の眼の水晶体は軟らかいため、弾力性が豊富で、調節力が強いため、遠視があっても水晶体を厚くして、あたかも遠視がないか、時には近視と測定されてしまうこともあります。そこで、正確な遠視や乱視を検査する目的で、調節麻痺薬の点眼を行います。正確な屈折状態を知り、弱視や斜視の原因をしぼり、きちんと矯正する事はとても大切なことです。きちんと合った眼鏡を掛けていないと、弱視や斜視の訓練効果は得られません。
③視力発育の遅れの回復
弱視眼の視力を回復させるため、健眼より余分に目を使わせて視力を伸ばす必要があります。このためには、目の上に直接貼り付けるか、眼鏡枠にはめ込む布パッチを使って、視力の良い方の目を遮蔽し、弱視眼を健眼より多く使わせる必要があります。遮蔽する時間は年齢や弱視の程度によって異なります。年齢が多くなるにつれ、長い時間の遮蔽が必要となります。年齢が小さい程、訓練効果は高まり、年齢が大きい程、訓練効果が得られにくくなります。(図1)
斜視
左右の視線が同じ方向に向かいないことを言います。片目の視線が内側に寄っていたり、外側に寄ったり、上に上がってしまうような状態です。いつも同じ片目ばかりがずれていると、その目はうまく使われずに視力は弱くなる可能性があります。また、両眼で物を見る力である両眼視機能の発達が弱くなってしまいます。
斜視の原因
- 片目の視力不良
- 遠視
- 目を動かす筋肉や神経組織の異常
- 両眼視の異常
- 遺伝
斜視の種類
日常の診療でみることの多い斜視としては、
①内斜視
「乳児内斜視」:内に寄っていて角度が大きい
「調節性内斜視」:遠視が原因なので、遠視の眼鏡を常用することで治る(図2)
②外斜視
「間歇性外(かんけつせいがい)斜視(しゃし)」:正面に向いている時と外にずれる時がある(図3)
「恒常性外斜視」:常にどちらかの目が外に向いている状態
上下斜視
「交代性上斜視」:左右の目が交代で上斜する
「下斜筋過動症(かしゃきんかどうしょう)」:横を見た時や上方視で片目が上斜する
斜視の治療・訓練
- 両眼の向きを真直ぐ揃える
- 視力が正常に発達するよう促す
- 両眼視機能の発達を促す
このためには、
- 手術で目の向きを治す
- プリズムで矯正し両眼視できるようにする
- 屈折異常の矯正をして視力を伸ばす
- 両眼でものを見る力が弱い時は、同時視訓練を行う。
鑑別が必要なその他疾患
偽斜視
①本当は斜視ではないのに斜視のように見えるもの。
②生まれつき目の奥のつくりによって、一見、黒目が外側にずれて見える偽外斜視。
心因性視力障害
明らかな器質的異常を認めず、心的要因により視力低下が起きた状態。近年の社会変化から小児の心因性視力障害は増加傾向にあり、特徴的な症状や検査所見を理解し、心のケアに注意が必要です。
原因
本人の性格と環境因子が挙げられます。友達・担任・部活動・習い事・家族間の葛藤などの要因が組み合わさって関与します。特に、母子関係が重要と言われています。
治療
プラセボ眼鏡処方。見やすくなることで、本人が希望すれば処方します。この眼鏡は、検査時の暗示法により見やすくなった眼鏡ですが、度が全く入っていないこともあります。本人には、度が入っていないことは伝えません。眼鏡なしで見えるようになったら外します。
予後
予後は良好ですが、本人が精神的に成長することで、社会と折り合いをつけていくには時間がかかります。数ヶ月で治癒する例もありますし、毎年、繰り返す場合もあります。「お子さんからのSOS発信」と捉え、傷つきやすい繊細な心を持っていると認識してやることが必要です。