2023年12月01日
利根中央病院
摂食嚥下障害看護認定看護師
根津 えり子
私たちにとって、「食べる」とはどのような意味を持っているでしょうか。
私たちが普段当たり前に行っている「食べる」ことには、健康を維持するために必要な栄養を摂取するというだけでなく、食事そのものの楽しみや、人とのコミュニケーションの機会といった役割があります。私たちにとって「食べる」とは、社会的なつながりという側面から見ても、とても重要です。
食べる・飲み込む(摂食嚥下)のメカニズム
食べる・飲み込むという運動は、主に5つに分けられます。
- 食べる物を認識する(先行期)
- 食べ物を口に入れて、唾液とよく混ぜて咀嚼する、舌で食べ物を押しつぶす(準備期)
- 食べ物を舌でまとめて飲み込みやすい形状にして、舌で喉に送り込む(口腔期)
- 喉から食道へ送り込む(咽頭期)
- 食道から胃へ送り込む(食道期)
摂食嚥下の障害
食べ物を認識して口に入れ、噛んで飲み込み、胃まで運ばれるまでの機能が様々な原因で阻害されることを「摂食嚥下障害」といいます。摂食嚥下障害を起こすと、飲食ができないことによる栄養状態が低下する低栄養や脱水を引き起こしたり、食べ物が気管に入ることによる誤嚥性肺炎、窒息や飲食ができないことによる食べる楽しみを失ってしまうというQOL(生活の質)の低下などがあります。
誤嚥性肺炎とは… 飲み込む機能(嚥下機能)や咳をする力が弱くなると、口腔内の細菌、食べかす、逆流した胃液などが誤って気管に入りやすくなります。厚生労働省による「死因別死亡数の割合」を見てみると、2022年のデータにおいて肺炎での死亡率は5位、誤嚥性肺炎での死亡率は6位、全体の8.3%と示されています。
摂食嚥下の影響
加齢による影響(表1)
総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は29%で日本は世界No.1、超高齢化社会となっています。さらに、内閣府によると2025年には国民の約3人に1人が65歳以上、約5人に1人が75歳以上となる計算です。
コロナ禍による影響
新型コロナウイルスの感染拡大で外出自粛が長期化し、口周りの筋肉が衰える「オーラルフレイル」が問題となっています。人と会わなくなり、おしゃべりをしない、粗食になってものをよく噛まない、しゃべらないから滑舌が悪くなる悪循環です。また、マスクをすることで、気道の抵抗が増えるため口呼吸になってしまいます。口呼吸は、いつも口を開けているということなので、まずドライマウスになりやすくなります。さらに、舌の筋力が衰えるので舌を動かしづらくなり、舌苔(ぜったい:舌に付着する白いコケ状のもの)がつきやすくなります。歯周病を引き起こす歯垢も、口呼吸だとつきやすくなります。舌苔や歯垢は、口腔内の雑菌の温床ですし、口臭の原因となります。
食べ続けるために
トレーニングを習慣化させて嚥下に関わる筋力を維持・向上しましょう。
嚥下体操(図1)
食べる前の準備体操です。全身や首回りの筋肉のリラクゼーションになり、覚醒を促し、飲み込みやすくなります。
パタカラ体操(図2)
「パ」「タ」「カ」「ラ」の4文字を発音することで口・舌の筋肉を使い、食べる・飲み込む機能を鍛える体操です。口・舌の準備運動として食べる前に各10回程度行います。
しっかり、はっきり「パ」「タ」「カ」「ラ」、「パ」「タ」「カ」「ラ」と繰り返したり、「パパパ…」「タタタ…」「カカカ…」「ラララ…」と繰り返しましょう。
「パタカラ体操」は、食べ物をかむ力、飲み込む力がつくだけでなく、誤嚥を防ぐ、入れ歯の安定にも効果があります。また、かむ力が向上することで、唾液の分泌も促進されます。会話が減った高齢者や最近顔がたるんできたかもしれないと思っている方にもアンチエイジングとしても有効です。
「食べる」を支える取り組み
摂食嚥下支援チーム
2020年に多職種による摂食嚥下支援チームを立ち上げました。嚥下機能低下や誤嚥予防につながる口腔ケア、嚥下機能評価や画像診断の結果に基づき、ひとりひとりに適した嚥下調整食の選択など、口から食べる可能性について積極的に取り組んでいます。
利根沼田地域 食支援の会
地域の病院・施設・在宅間の食形態の情報共有を目的とし、2023年8月より利根沼田医療福祉勉強会と沼田栄養士会の共同で「利根沼田地域 食支援の会」を立ち上げました。生活の中での「食べる」はとても重要なもので、安全安心に「食べる」を楽しんでいただけるように、さらには退院時・施設移動時、または在宅へ帰る際に食事で困らないようにしたい考えています。